医師から見たブンネの効果
ブンネ楽器は認知症の患者さんをエンパワーする極めて
有効なツールであると感じています。ブンネ・メソッドが
多くの関係機関に広がることを願っています。
医療法人ハートピア細見クリニック 院長 細見 潤 先生
鹿児島大学医学部卒 医学博士
厚生労働省認定 精神保健指定医
日本精神神経学会認定 精神科専門医
認知症の非薬物療法
医療法人ハートピア細見クリニックは、宮崎県の中心部に2009年に開院した精神科・心療内科のクリニックです。標準的な精神科診療だけでなく、認知症の診療に特に力を入れており、重度認知症デイケア施設「かなりあ」を併設しています。
重度認知症デイケアの施設基準は、医師のほかに、専属する看護師、作業療法士、精神保健福祉士もしくは臨床心理士の3職種の配置が必須であり、精神科専門療法として位置づけられているため、同施設では薬物療法の他にも、パーソンセンタードケアの理念に基づいた様々な非薬物療法を、積極的に行っています。
日本神経学会監修の「認知症疾患治療ガイドライン2010」には認知症に対する主な非薬物療法として、バリデーション療法、リアリティーオリエンテーション、回想法、認知症刺激法、運動用法、そして音楽療法が記載されています。これらの非薬物療法は「科学的根拠はないが、行うように勧められる」と記載されています。そして、認知症刺激法を除くと概して効果は証明されていないとも記載されていますが、それは効果判定の方法が未だに確立されていない事や、研究対象が絞られていない事、サンプル数が少ない事などから、現時点では統計学的な証明がされていないという事であり、これらの非薬物療法を否定しているわけではありません。
当院ではこれらすべての非薬物療法を行っていますが、私は「人によって非常に効果的」だと感じています。
ブンネを通じて患者さんが自尊心を回復し、情緒的にも安定。
当院の音楽療法にブンネ楽器が加わったのは、2013年3月。当法人理事でデイケアを担当している松田ヒトミ事務長が「高齢者ケア ブンネメソッド」の講習を受けたのをきっかけに、スウィングバーギター1本を試験的に導入しました。
松田事務長の指導で「ふるさと」を練習することになり、ブンネ楽器に興味をもった患者さん約10名が、スウィングバーギター1本を囲んで集まりました。ギターを1人が演奏し、他の方は歌を歌うことにしました。そのため、参加者全てがギターを演奏するにはそれなりの時間がかかりました。しかし、参加者はだれ1人として飽きることなく、演奏している時の表情は真剣で程良い緊張感があり、演奏を終えた時には満足そうな表情が見られました。そこから段階的にブンネ楽器を増やすことにし、現在では週1回、1時間ほどのブンネ楽器の時間を設けています。
2014年10月12日・13日の両日、「地域回想法サミットin宮崎」という学会及び研修会をシーガイアコンベンションセンターにて主催し、2日目に市民公開講座のオープニングとして、患者さん20名のブンネ楽器の合奏と、市民コーラスグループ80名の合唱により「ふるさと」と「アメージンググレイス」の2曲を演奏しました。またその後も、宮崎市民プラザ・オルブライトホールにて回想法の市民公開講座を主催し、500名を超える聴衆の前で、同じように2曲の演奏を披露することができました。
大勢の聴衆を前にして患者さん達は緊張していましたが、演奏後には「緊張したけど楽しかった」「時間が短すぎてもっと舞台に立っていたかった」「またやってみたい」という前向きな声ばかりが聞けました。
ご家族からは「感動して涙が出た」「いつもは無表情な母の笑顔を見ることができて嬉しかった」「演奏する妻の姿に惚れ直した」などの感想が聞かれました。また、一般の参加者の皆さんからも、数多くの賛辞が寄せられました。
認知症になると、今まで簡単にできていた事ができなくなり、今あったことすら忘れてしまいます。こんなはずではないという強い不安と焦り、そしてあきらめから、生きていく気力をなくして抑うつ的になるという方々が多いのですが、ブンネ楽器に触れることで、さらにそれを人前で演奏する事で、患者さんが自尊心を回復し、情緒的にも安定していく姿を目にしました。
ブンネ楽器は認知症の患者さんをエンパワーする極めて有効なツールであると感じています。ブンネ楽器を用いたブンネ・メソッドが、多くの関係機関に広がることを願っています。
医療法人ハートピア細見クリニック 認知症デイケア「かなりあ」
宮崎県宮崎市橘通西1-5-3
【TEL】0985-35-1100
【URL】http://www.hosomicl.sakura.ne.jp/